ファイアーエムブレムエンゲージのストーリーが物足りない理由

FEシリーズの新作、「ファイアーエムブレム エンゲージ」。前作「風花雪月」とはテイストがガラッと変わったストーリーが特長の作品です。

クリアしてみて、少年漫画のようなバトル物としては非常に盛り上がるストーリーだと感じました。一方で、前作のような硬派な戦記物を期待すると、作り込みの物足りなさに肩透かしを食らってしまいます。

そこで、本作のストーリーの戦記物として物足りないのはどういう所なのか、下記で書いていきたいと思います。バトル物としての面白さは、前回の記事で書いています。

なお、本記事はストーリーのネタバレを大いに含みますので、未プレイの方は先に作品をプレイしていただければと思います。

 

作り込み不足な各国のバックグラウンド

『FE エンゲージ』国へ投資すると育成が便利に!? ソラネルの掲示板や実績、ブロディア王国のシトリニカ(声:長谷川育美さん)などの情報も公開【ファイアーエムブレム】

戦記物が面白くなるために必要な要素は、プレイヤー自身が、まるでその国の国民になったかのように物語に没入できることだと思います。

私たちは日本国民です。国民ですから、自分の国について説明できます。日本は東京を首都とする民主国家であり、工業やITで外貨を獲得しており、軍隊は他国へは派遣しません。

同様に、戦記物として完成度の高い、前作「FE無双 風花雪月」の「黄燎の章」を考えてみましょう。プレイヤーは、まるでレスターの国民であるかのように、国のことを説明できるはずです。レスターは、デアドラを中心とする連邦制国家です。商業で外貨を獲得しています。小国であるがゆえ、三国鼎立の体制を維持すべく、他国にも出兵します。ここまで説明できるプレイヤーなら、レスターが戦争に勝利すれば、まるで自分の国が勝利したかのように喜び、物語を存分に楽しむことができます。

では、「エンゲージ」ではどうでしょうか。フィレネやイルシオンといった国家の、政治・経済・軍事について説明できるでしょうか? いいえ、できないはずです。ゲーム内で、そのようなバックグラウンドは説明されていませんからね。これでは、物語の世界に没入することはできません。

 

上記に挙げた要素の内、物語に没入する上で特に重要なのは政治体制でしょう。

「FE無双 風花雪月」では、政治体制を説明するため、イベントシーンで各国の為政者と重臣たちをセットで登場させていました。例えば、エーデルガルトが居城で会話をするシーンでは、エーギル公、アランデル公、ヴァーリ伯、ヘヴリング伯、ベルグリーズ伯といった貴族たちが同席するのが常です。彼らの顔ぶれを見れば、内政担当、外交担当、軍事担当といった国家運営の役割が分かり、政治体制が理解できます。また、主君の出征中も政治を代行できる家臣が居ることや、必ずしも全員が主君の意見に賛同していないこと、といった人間模様も見えてきます。

一方で、「エンゲージ」の為政者はどうでしょうか。作中では、イヴ女王・スフォリア女王・ハイアシンス王・モリオン王といった王たちは、往々にして重臣の一人も従えず登場します。特にイヴ女王に至っては、兵士の一人すら帯同させない潔さ。これでは、国家運営の様子が読み取れません。

 

また、「FE無双 風花雪月」では、各国の王族だけでなく貴族階級もクローズアップすることで、政治・経済・軍事を緻密に描写していました。

例えば、「黄燎の章」には、グロスタール伯爵家やエドマンド辺境伯家をはじめとする五大諸侯が登場。グロスタール家は国境沿いに領地を持つため帝国の干渉を受けやすく、エドマンド家は重商主義ゆえ軍事力は低い、といったお家事情も描かれています。

対して、「エンゲージ」では、各国の貴族についての描写はほぼ皆無。唯一あるのは、シトリニカがブロディアの大公家の娘という程度でしょう。他に、爵位について言及があるのは、クロエ(公爵家出身)とブシュロン(伯爵家出身)程度。家名や領地の位置についての設定もありません。

 

戦う必然性に欠ける戦争

FEは、戦争をするゲーム。命を賭して戦うからには、相応の理由が必要です。

前作「FE無双 風花雪月」の「青燐の章」では、ファーガス軍は祖国を守るために戦いました。敗戦すれば帝国によって祖国が蹂躙され、自分たちの命はありません。ですから、死に物狂いで戦うのです。

一方で、「エンゲージ」の主人公リュールはどうでしょうか。フィレネやブロディアに肩入れしてイルシオンと戦争をしますが、命を懸けて戦う理由はありません。敗戦しても、自分はリトスに撤退すれば良いのですから。

上の画像は、フィレネ城に侵攻してきたイルシオン軍と戦うシーンです。「許せません」と怒りを露にするリュールですが、本当に許せないのでしょうか。神竜族は、1000年に渡って各国の興亡を横目に見てきた種族のはずです。その歴史に照らし合わせれば、今また一つの軍事的弱小国家が、強者生存の原理に基づいて滅びようとしているだけです。それが、どのように「許せない」のでしょうか?

この辺りの戦う理由付けが弱く、本作はプレイしていてあまり燃えませんでした。

 

リュールが各国と戦う理由が無いのは当然。真の敵は、邪竜ソンブルだからです。しかし、その宿敵ソンブルとすら、実は戦う理由が無いのです。

終盤、ソンブルは異界への侵攻という野望を実現するため、異界への扉を開きます。扉が開いたままでは、異界のエネルギーが吹き荒れ、エレオスが滅びかねません。リュールは世界を救うため、扉の中へと飛び込みます。ソンブルを倒して扉を閉じるために。

しかし、リュールと出会ったソンブルは言います。自分はこれから異界へ行くから、リュールとは二度と会う事もない。扉は閉めてやるから、リュールはエレオスに戻れ。そうすれば、エレオスは平和に保たれる、と。

非常に現実的で平和的な提案です。そもそも、リュールはソンブルとは異なる世界で産まれた存在。ソンブルからは微塵も興味を持たれていません。この取り決めを受け入れれば、当初の目的であった世界平和は実現されます。

しかし、リュールはこの提案を足蹴にし、「いつかソンブルがエレオスに再度侵攻してこないとは言い切れない」という事実無根の言い掛かりで、ソンブルに最後の戦いを挑みます。このように、行動原理の説明が不完全であるせいで、最後まで戦う意味に疑問符が付くゲームでした。

 

こういう事態を招いたのは、「異界」という設定を安易に導入したからでしょう。異界出身の者同士は利害関係が薄く、宿敵同士にはなり得ません。

そもそも、FE初期の作品である「暗黒竜と光の剣」~「トラキア776」までは、各大陸は全て同じ世界にあるという設定でした。しかし、「烈火の剣」以降、原作者の退社や登場大陸の増加があり、同世界という設定を維持するのが困難になってきました。これを解決するため、「覚醒」にて導入されたのが、空間的・時間的な矛盾を一発解消できる魔法のワード「異界」です。

異界設定は、その後のifやFEHにおいても受け継がれ、今なおエンゲージに登場しています。しかし、そろそろこの設定を撤廃すべき時期が来たように思います。異界出身者同士が戦っても、FEの得意としてきた戦記物的なドラマは生まれません。

 

物語への没入を阻害する不自然なストーリー

今作では、章頭や章末のストーリー運びにもツッコミ所が多く、物語に感情移入するのが難しいです。

例えば、上の画像は、主人公リュールと四狗のメンバーが、イルシオンの港町で鉢合わせするシーンです。これから命のやり取りをする仇敵と、目と鼻の先の距離で世間話をする主人公。これでは、戦闘の緊張感も何も生まれません。

前作「風花雪月」の章頭会話はプレイヤーの心に火を付けるものが多かったですが、今作の章頭会話は逆にプレイヤーを脱力させるものもあります。

 

この画像は、序盤の山場である、敵国イルシオンの王が拠点を置く、デスタン大教会に進軍するシーンです。敵軍の居城を寡兵で攻めるのですから、奇襲、火攻め、寝返り工作など、様々な策が考えられます。しかし、主人公リュールが取った行動は、教会の扉を開けて正面からこんにちは。結果として、建物内で敵兵に襲われ、絶体絶命のピンチに。ツッコミどころ満載のストーリーです。

 

他にも、プレイヤーを脱力させる不自然なストーリー展開は色々あります。

  • [5章] イルシオン軍に一瞬で王都を陥落させられるフィレネ王国。まともな国防が機能しているのか?
  • [7章] 仮にも一国の王子であるスタルークが、ジャンピング土下座。その情けない姿を見てなお、何故か好意を寄せるラピス。
  • [8章] イルシオンとの戦争にて、総大将なのに無闇に前線に出たがるモリオン王。結果として討ち死にし、ブロディア王国を混乱に陥れることに。
  • [9章] 作戦に失敗したアイビーを殺す決断を下すハイアシンス。一方、17章ではアイビーに対し「お前を愛していた」と語っており、何を考えているのか不明。
  • [11章] デスタン大教会で神竜軍を袋のネズミとすべく、入り口を守るように登場する四狗。しかし次のシーンでは、神竜軍はイルシオン南部に脱走している。
  • [13章] 仮にも王位継承者であるミスティラの趣味が野宿。いずれ野盗に襲われて命を落とすのでは?*1
  • [18章] 自国の王女2人を迷いも無く殺そうとするイルシオン軍。説得に応じたリンデン以外は、何のために戦っているのか不明。

 

内面的成長の乏しいキャラクター

FEエンゲージ】支援会話を見るのがめんどくさい 支援レベルを上げるメリット|GameFoliage

本作に登場するキャラクターは、どれも魅力的なものばかり。女キャラはビジュアルも声も可愛く、男キャラは愉快でカッコいい人物ばかりです。こんなキャラを何十人も生み出すとは、ISの仕事ぶりは天才的です。それだけに、キャラクター面で一つだけ惜しい点があります。それは、キャラクターの成長によるドラマ性が薄いことです。

前作「風花雪月」では、様々な問題や悩みを抱えるキャラクターが、戦いを通して心身ともに成長していく過程が見所でした。例えば、マリアンヌは「獣の紋章」を身に宿すがゆえ、人との関わりを避ける、自責的な性格のキャラクターです。しかし、外伝マップで「獣の紋章」の真相を突き止めてからは、精神的に吹っ切れ、後日談ではフォドラのために活躍する弁舌家になります。

それに対し、本作では、登場時からクリアまでで大きな精神的成長があったキャラクターはほとんど居ないように思います。この点が、風花雪月と比べて物足りなく感じてしまいます。

 

使い古された、容易に予測可能な展開

記憶喪失のリュール。マルスも思わず口をつぐむような彼の過去とは一体何なのか。この謎が、本作のストーリーの再序盤で提示されます。

神竜を象徴する青と邪竜を象徴する赤のツートンカラーのデザインを見て、「多分邪竜の血を引いてるんだろうな」と思ったプレイヤーも多かったことでしょう。そして、実際にリュールは邪竜ソンブルの子でした。こういった、容易に予想可能なストーリー展開は、本作の残念な点です。

確かに、親殺しが最終目標だというのは、バトル物としては熱い展開です。しかし、「主人公が実はラスボスの竜の血を引いていた」というのは、ISが直近でシナリオを手掛けたFE作品である覚醒・ifと全く同じです。この点がワンパターンで惜しく感じました。できれば次回作では、今までにない斬新なストーリー展開を期待したい所です。

 

また、作中での重要キャラの死も、非常に予測しやすいものとなっています。

例えば、四狗のマロン。神竜軍に指輪を奪われ続けた失態を、たまたまソンブルに咎められなかった時の反応が上の画像です。自分の立場を過信し、失敗の責任を追及されることのない特権的身分であると豪語するマロン。「その内やらかして殺されるな」、と誰もが思う事でしょう。実際、この次の章で更に指輪を2つ奪われる大失態を犯し、3章後に殺されます。

本作の重要人物は必ず、死を迎える前に、火を見るより明らかな死亡フラグを立てます。

  • [3章] 千年ぶりに目覚めたリュールを見て、「話したいことが沢山ある」と喜ぶルミエル。しかしそれが叶わぬまま、直後に邪竜軍の夜襲を受け絶命。
  • [9章] 周囲の制止を振り切り、イルシオン軍の見え見えの罠に、無策で突撃するモリオン王。予想通り、敗戦し死人となる。
  • [10章] 邪竜ソンブルの復活を目にし、狂気に満ちた高笑いを上げるハイアシンス王。直後に、ソンブルの養分として食い殺される。

 

しかし、この「分かりやすい死」には評価点もあります。第一に、死がリュールや王族たちを奮起させたり、「異形のモリオン」や「異形のルミエル」といった強敵を生み出したりと、ストーリー上のギミックとしての働きは有効です。

第二に、過去作「if」では、ストーリー上でメインキャラが何の予兆もなく突然死する違和感満載の展開が多く、問題視されていました。リリス・スズカゼ・クリムゾンといったキャラが突如として犠牲になり、主人公カムイが嘆き哀しむのですが、プレイヤーは呆気に取られ、今一つ共感できません。それに対し、「エンゲージ」では分かりやすい死亡予告があるため、こういった違和感が軽減されています。

 

明かされないまま終わった謎

ファイアーエムブレム エンゲージ』紋章士 総覧 – Nintendo DREAM WEB

本作においては、謎が謎のまま終わってしまっている部分が存在するのも、残念な点です。

例えば、ゲームを遊んで真っ先に湧く疑問の一つが、「紋章士とは一体何者なのか」という点です。これに関して、作中で明かされている情報は下記の通りです。

  • 紋章士は指輪から顕現される精神体であり、物体に触れることはできない
  • 異界には、それぞれの紋章士の元になった英雄が存在する。但し、その英雄自身と紋章士とは同一の存在ではない
  • ソンブルの居た異界では、エレオスとは別の紋章士の指輪が存在していた
  • 千年に一度、12の指輪を揃えた者は、1つ願いを叶えることができる

結局のところ、異界で活躍した英雄がどのような経緯で紋章士となったのかは不明のままです。制作陣も、これに関する確固たるな設定は定められなかったのでしょう。

 

また、ソンブルが王の血を求めている、という設定も謎深いです。

千年前の神竜族との戦争で失った力を取り戻すため、モリオンやハイアシンスといった王を餌食にするソンブル。10章では、同じ部屋に居たアルフレッドやディアマンドら王子王女グループには見向きもせず、ハイアシンスだけを丸飲みにしました。一般人でも王子でもなく、王だけからのみ復活のエネルギーを摂取できるというのは、一体どういう原理なのでしょうか。

こういった謎設定に関しては、しっかりフォローが欲しい所です。

 

まとめ

コーエーテクモゲームズが担当した風花雪月のシナリオは、緻密な完成度を誇っていました。それと同じクオリティを本作のシナリオにも期待していると、肩透かしを喰らってしまいます。国家背景の作り込みやキャラの内面的成長など、様々な角度から見て、戦記物としての物足りなさが目立ちます。

もちろん、ISが担当した「if」のシナリオと比較すると、当時の不評ポイントは大幅に改善されています。しかし、やはり外注のクオリティには遠く及びません。次回作では、IS側がゲームシステム構築やレベルデザインを担当し、コーエーテクモゲームズがシナリオを担当すれば、神ゲーが誕生するのではないでしょうか。

*1:事実、神竜軍が偶然来なければ、テッツィ&トッツィに勝てていない