ファイアーエムブレムエンゲージのストーリーが盛り上がる理由

FEシリーズの新作、「ファイアーエムブレム エンゲージ」。前作「風花雪月」とはテイストがガラッと変わったストーリーが特長の作品です。

クリアしてみて、少年漫画のようなバトル物としては非常に盛り上がるストーリーだと感じました。一方で、前作のような硬派な戦記物を期待すると、作り込みの物足りなさに肩透かしを食らってしまいます。

そこで、本作のストーリーのバトル物としての面白いのはどういう所なのか、下記で書いていきたいと思います。戦記物としての物足りなさは、次回以降の記事で書きたいと思います。

なお、本記事はストーリーのネタバレを大いに含みますので、未プレイの方は先に作品をプレイしていただければと思います。

 

思い入れ深い歴代キャラの集結

ファイアーエムブレム エンゲージ プレイ動画26【エンディング】 - YouTube

今までFEの歴史を刻んできた過去作から、主人公たちが集結する。これが本作も最もアツいポイントでしょう。過去作主人公たちの性格や経歴は本作で忠実に再現されており、彼らを目にするだけでノスタルジーが沸き起こります。不気味な異形の敵との戦いに、信頼と実績のキャラたちが手を貸してくれるというのは、非常に心強いものです。

また、彼らの性能やスキルが原作のシステムを反映している、というのも嬉しいファンサービス。例えばセリカのスキル「大好物」はエコーズの食事システムの再現ですし、カムイのスキル「スキンシップ」はifのキャラクター撫でシステムのオマージュであるなど、過去作プレイ者ならクスッと来る原作要素が散りばめられています。ストーリーを進める中でも、次はどの過去作主人公が仲間になるんだろうとワクワクします。

加えて、外伝では、各紋章士が原作で特に思い入れを持つマップが再現されています。紋章士のパーソナリティが掘り下げられるとともに、プレイヤーも思い出に浸れます。

 

主人公サイドだけに留まらず、終章では過去作のラスボスたちが「闇の紋章士」として集結するのも胸熱です。アスタルテやドーマといった各大陸の上位存在を交えてのボスラッシュはインパクト抜群。その上、彼らの戦闘会話も原作の散り際のセリフの再現であり、懐かしさ満点です。FE30周年の作品に相応しい、ニクい演出です。

 

意外性のある終盤の展開と伏線

本作の終盤である20章以降は、意外性のある怒涛のストーリーが展開され、思わず唸らされました。特に驚いたのは、主人公リュールが死ののちに異形兵となり、更に紋章士として復活する、という点。新作主人公が過去主人公たちと肩を並べてともに紋章士となる、という展開は予想だにしていませんでした。死後の存在として戦う主人公、というのはFEでも前代未聞であり、仰天の展開です。

 

また、主人公リュールが紋章士を顕現する際には、独特の呪文を発します。「竜穿ろ」と書いて「ほえろ」と読ませるなど、謎の厨二ワードセンスがプレイヤーを当惑させます。最初は、てっきりISのシナリオライター中二病なのかと誤解していました。

しかし、実はこの呪文こそ、主人公リュールが邪竜族の血を引く証なのでした。ストーリー中では、神竜王ルミエルは祈りによって紋章士を顕現し、邪竜ソンブルは呪文によって紋章士を顕現します。そして、ソンブルと同じ顕現方法を有するリュールは、邪竜の血族であると判明します。この伏線がチュートリアルから張られていたことに終盤で気付かされ、思わず感銘を受けました。こういうストーリーが、今までのFEに存在したでしょうか。

この紋章士の顕現システムは、ストーリーで最大限に有効活用されています。例えば、22章で異形兵と化したリュールが呪文で紋章士を顕現すると、ソンブルが顕現したのと同様に「闇エンゲージ」状態となってしまい愕然とする、というのは面白い展開だと思いました。指輪の能力発動のルールを探り、そのルールの裏側を突くことが、戦いを有利に進める上で不可欠となります。能力バトル物の少年漫画を読んでいるかのように、引き込まれるストーリーでした。

 

同情の余地ある悪役

本作のラスボスである、大陸最強の力を有する邪竜ソンブル。本作プレイ前は、無条件で悪と断定できる「邪竜」という存在が登場するストーリーに、不安を煽られました。FEの生みの親である加賀氏曰く、「絶対悪を登場させないことが物語の深みを生む」そうだからです。実際、邪竜ギムレーがラスボスとして登場する「覚醒」では、主人公があまり自分の頭で善悪を考えない、軽薄短小なストーリーが展開されました。

そんなギムレーとは違って、邪竜ソンブルには確固たる戦いの動機が設定されています。彼は、戦いで親族を皆殺しにされ、生まれ育った世界を追放され、唯一の知己にも見放された*1、悲しき過去があります。その復讐を成し遂げるため、エレオスを犠牲に、元の世界への侵攻を試みているのです。ラスボスに同情の余地があるというのは、ストーリーの評価点です。

FE過去作のラスボスは、ネルガルやハイドラのように正気を失った者や、アスタルテやフォデスのように人の心を持たぬ者たちでした。それと比べれば、人間との話し合いや交渉が可能なソンブルは、新感覚のラスボスです。

 

邪竜軍の幹部である四狗にも、戦う動機が設定されていたのは良い点でした。一見冷血漢に見えるセピアや、戦闘狂に見えるグリにも、「家族が欲しい」という共通の願望がありました。孤独に育った幼少期を埋め合わせるため、愛するものを欲していたのです。

プレイヤーが四狗から受けた暴行は数知れず、指輪を奪われた状態で追い回されたり、暗闇からワープライナで襲撃されたりと、理不尽な仕打ちに晒されてきました。そんなヘイトの溜まった四狗ですら、死に際は哀れに思えてしまう、良い演出でした。

ただ、「孤児なので寂しかった」というキャラ付けは使い古されており、もう一捻り欲しかった所です。

 

テンポ良好なストーリー展開

本作では、主人公リュールが指輪を求めて各国を巡る、諸国遍歴のストーリーが展開されます。こういった大陸周遊型のストーリーは、展開が遅くなりがちなのが過去作の課題でした。

例えば「if 暗夜王国」では、敵軍の本拠地であるシラサギ城に24章で到着した後、終章である28章まで5マップも城での戦いが続きます。変わり映えのしない風景には、さすがに飽きが来ます。

また、「蒼炎の軌跡」では、18章でクリミア対デインの全面戦争が始まって以降、29章まで12マップの祖国奪還戦が繰り広げられます。その間、クリミアが徐々に戦線を押し上げるのに対し、デインは有効な手立てを打てず、じわじわ戦力を削られるのみ。2国間の有利不利は逆転せず、やや退屈です。

それに対し本作では、フィレネ→ブロディア→イルシオン→ソルムと、3マップほどのスパンでバトルフィールドが切り替わり、視覚的にプレイヤーを飽きさせません。加えて、神竜軍有利な戦況と邪竜軍有利な戦況がコロコロ入れ替わり、展開もダイナミックです。

テンポの良さでプレイヤーを楽しませてくれる、優秀なストーリーだと感じました。

 

まとめ

FEエンゲージは、特に下記の点で面白いストーリーだと感じました。

  • 歴代キャラが集結する胸熱展開
  • あっと言わされる終盤の展開と伏線回収
  • 話が分かり同情の余地があるラスボスと敵幹部
  • プレイヤーを退屈させないテンポの良さ

緻密な設定が売りであった風花雪月とは路線が異なり、能力バトル系少年漫画のような盛り上がりのあるストーリーだと思いました。

*1:礎の紋章士に見捨てられたと思い込んでいる。真相は不明