ファイアーエムブレムシリーズには多種多様な悪役が登場しますが、その中でも大物の悪役はストーリーを左右する重要な役割を担っています。
しかし、悪役の殆どは小悪党であり、大物の悪役は一握りしか居ません。
これだけ少ないということは、大物の悪役というのは、作者からすればやや役作りが難しいのではないかと見えます。
そこで、小物の悪役と大物の悪役の違いを考え、そこから大物の悪役に必要な資質を考えてみました。
大物の悪役は、小物の悪役と違って、プレイヤーから一目置かれる存在だということになります。
つまり、風格が備わっていたり、何らかの評価点や見どころがあったりします。
例えば、カミュ(暗黒竜 / グルニア将軍)であればその騎士道精神と愛国心から来る強い信念は評価点と言えますし、ハーディン(紋章 / アカネイア皇帝)はどれだけアリティア軍に攻め込まれようと全く動じない風格を持っています。
一方、個人的に小物の代表だと思っているラング(紋章 / アドリア侯)やロアーツ(封印 / エトルリア宰相)は、敵が来るとすぐビビりますし、私腹を肥やすことが目的なので強い信念は持ち合わせていません。
評価点や風格という意味では、大物悪役には有って小物悪役には無いような要素は、次のようなものになると思います。
- 人望がある
- 自分なりの正義を貫き通す
- 優れた人物だが正気ではない
- ピンチに動じない
- 野望が大きい
- 圧倒的な手腕や実力を持つ
以下では、これらの要素を1つずつ検証していきたいと思います。
因みに、どのキャラが大物悪役でどのキャラが小物かという判断は、私の主観に依ります。
1:人望がある
たとえ悪事を働く人間であろうと、部下に慕われていたり同僚から信頼されていれば、プレイヤーからは「器の大きい人物なのかな?」と思われ、一目置かれる存在となります。
例えば、ジェルド(暁 / 帝国駐屯軍将軍)と言えば主人公ミカヤの仇敵であり、また部下や無抵抗の民を殺したりする外道な面を持つ人物ですが、部下のアルダー将軍によれば、駐屯軍の兵士から慕われているそうです。
このことはアルダーがジェルドを庇って命を落とす場面からも明らかであり、少なくともアルダーからは全幅の信頼を得ている様子です。
こんな上司を慕うなどというのは、一見すると理解不能な発想にも思えます。一方で、駐屯軍を全て切り捨てようとしたヌミダ公爵とは異なり、ジェルドは帝国騎士としての誇りや粘り強さは持ち合わせています。兵士の立場に立ってみれば、一般兵の立場に近いジェルドの方に従いたい、という事になるのかもしれません。
普段の行いはゲスですが、部下に慕われてるという点で大物っぽさを醸し出している人物と言えましょう。
同様のことはロイド(烈火 / 四牙)にも言えます。
彼も、弟のライナスから信頼されている点やニノに懐かれている点から、単なる敵役ではなく、見どころのある人物となっています。
逆に、小物悪役には味方からの人望や信頼を欠いている例が多いですね。
ガンズ(if / 暗夜王国近衛隊長)は王子王女から嫌われ、ギャンレル(覚醒 / ペレジア王)は部下の兵士たちに逃げられ、ダーレン(烈火 / ラウス侯)は領民からの信頼も薄く、ジオル(暗黒竜 / グラ王)は娘にすら恨まれています。
敵組織内での評価はプレイヤーからの評価にも繋がるため、人望の有無が大物と小物の差に影響を及ぼすと言えます。
2:自分なりの正義を貫き通す
プレイヤーから見れば敵対する立場であっても、そのキャラクターなりの正義や信念をひたむきに貫き通す意思が見られれば、おのずとキャラクターの評価は上がり、大物っぽさが出ます。
この例として挙げられるのがミシェイル(暗黒竜 / マケドニア王子)です。
ミシェイル王子は主人公マルスから見れば敵国ドルーア帝国の同盟国の総大将という敵役であり、また父王を暗殺して玉座を奪い取ったという行為も作中では悪行として語られています。
一方で、リスクを冒してでもマケドニアを大国にしたいという熱意や、アリティア軍に本拠地まで迫られても臆せず戦い抜こうとする覚悟は、評価に値する心意気であると言えます。
こういった姿勢は、死ぬまで厳格な王子であり続けたマークス(if / 暗夜王子)、クリミアの国益を守ろうとする気概はあったルドベック(暁 / フェリーレ侯)、様々な危険を冒してもゼフィールを守ったマードック(封印 / ベルン王国将軍)、などにも見られます。
こういう信念があるからこそ、大物っぽい役回りができると言えましょう。
逆に、小物な悪役は強い信念を持たないため、目的をすぐに諦め、放棄してしまいます。
例えば、アルカルド(封印 / 西方三島総督)はエトルリア王都を守ろうとせずすぐに逃げてしまいますし、ヌミダ(暁 / 元老院議員)は私兵を守ることを簡単に諦めてしまいます。
このように、目的意識と、それを貫き通す姿勢を持つことが、大物悪役への第一歩と言えます。
3:優れた人物だが正気ではない
魔法などで操られておかしくなっているものの、本来は評価すべき点を持つ人物であった、というパターン。
例えば、ハーディンは闇のオーブで操られて正気を失っていますが、本来はマルスと並んで暗黒戦争の英雄であり、その手柄を惜しげもなくマルスに譲るという謙虚さも持ち合わせています(後付け設定感満載ですが)。
また、帝国に命を狙われていたニーナを匿って守り抜いたという実績もあり、タリスでぬくぬくしていたマルスとは違うわけです。
これが下衆で外道なボスであったならばシナリオも盛り上がりませんが、一方で有能で人格者な悪役を出せば、大物っぽさが出てプレイヤーのやる気も上がるというものです。
但し、有能な人格者は普通に考えて悪役とはなり得ませんので、そこは操られているという設定で敵に回ってもらうわけです。
他に、魔道の才能や優しい心を持ち合わせながらも魔王に操られているリオン(聖魔 / グラド皇子)、カリスマ性ある王だったが死後に傀儡となっているガロン(if / 暗夜王)、妻と子供を愛するいいパパだったが闇魔法のせいで狂人となったネルガル(烈火 / 黒い牙首領)、といったキャラがこの例に当てはまります。
4:ピンチに動じない
危機に瀕しても全く動じない胆力があれば、大物っぽい風格も醸し出されるというものです。
例えば、アシュナード(蒼炎 / デイン王)はいくらクリミア軍に攻め込まれようとも、全く慌てふためく様子を見せません。
寧ろ、敵の進撃する様子を見て「計画通り」とほくそ笑む姿は、まさに大物の鑑。
そのように落ち着き払ったふてぶてしい笑みを浮かべる敵が居てこそ、プレイヤーも挑戦心を煽られるわけです。
ルカン(暁 / ガドゥス公)も、負の女神の使徒の進撃を見ても、他の公爵と違ってどっしり構えた態度を取っており、大物っぽさが出ています。
まあ、彼は最終的にはただの勘違い野郎だったわけですが、一応4部の途中までは強大なボスっぽくも見えなくはないでしょう。
他にも、ゼフィール(封印 / ベルン王)、アルヴィス(聖戦 / ヴェルトマー公)、といったような敵の総大将は、多少のピンチにも落ち着いて対処する人物なので、大物っぽく見えます。
逆に、危機が迫るとすぐに慌てふためく悪役は小物っぽく感じます。
例えば、レイドリック(トラキア / マンスター王)は、レンスター軍が城門を破るや否や、ベルド司教に泣きつきます。
「待ってください、ベルド司教 あなたに見捨てられたら我らは…」というセリフからは、何とも小物な感じが漂います。
他にも、シグルドたちが攻め込んでくるや否や焦ってアルヴィスに詰め寄るレプトール(聖戦 / フリージ公)、ビビッて敵前逃亡を図るエクセライ(覚醒 / ヴァルム帝国軍師)、レオンにちょっと脅されただけですぐ顔面蒼白になるマクベス(if / 暗夜王国軍師)などは何ともコミカルな小悪党的側面を持っています。
このように、危機に際して落ち着きがあるか否かが、小物と大物を分けるポイントとなります。
5:野望が大きい
大物にはそれに相応しい大きな目的があるものです。
例えば、メディウス(暗黒竜 / ドルーア皇帝)は人類を滅ぼして竜の国を作るという、大陸スケールの目的を掲げています。
ベルド(トラキア / ロプト教団司教)も、トラキア半島の国家同士を潰し合わせ、引いては暗黒神の復活を目指すという目的を持っています。
トラキアは全体的に普段よりスケールの小さい話が展開されますので、通常営業のベルドが相対的に大スケールに見えると言えます。
同じく、人類を滅ぼしたり全世界を掌握したり、といった目的を持つ敵としては、ガーネフ(暗黒竜 / 魔王)、マンフロイ(聖戦 / ロプト教団大司教)、フォデス(聖魔 / 魔王)、セフェラン(暁 / ペルシス公)、ファウダー(覚醒 / ペレジア王)、などが挙げられます。
こういう巨大な構想と、それを実現する実力を持った人物が現れれば、否応なしにプレイヤーはそれを大物の悪役と認識します。
逆に、目標が小さかったり、意義の薄いものであるような敵役は、小物と認識されやすいです。
例えばケンプフ(トラキア / フリージ軍将軍)はラインハルトに一泡吹かせることが、バルテロメ(暁 / クルペア公)はゼルギウスに復讐することが目的となっており、まあ人類滅亡や国家掌握よりは小さな目標と言えるでしょう。
金銭を得ることが目的の海賊たちや、私腹を肥やすことが目的の貴族たちも同様です。
このように、目的のスケールの大小で、大物っぽさが変わってくると言えます。
6:圧倒的な手腕や実力を持つ
敵対勢力の人物であっても、その人がとんでもなく仕事ができたり、また戦いが滅茶苦茶強かったりすると、大物に見えます。
滅茶苦茶強い人物として挙げられるのが漆黒の騎士(蒼炎 / デイン王国将軍)です。
彼は主人公アイクにとっては父の仇たる悪役なのですが、戦闘力がラスボス並みに強く、マップ初登場の11章の時点では全く敵いません。
こういう敵は、圧倒的な強さを持つというだけで大物に見えますし、プレイヤーとしても漆黒の騎士に勝つことがゲームの1つの目標となり、やる気が出るわけです。
デギンハンザー(暁 / ゴルドア王)も同じ感じで、作中では「ラグズは強い。その中でも竜鱗族は強い。竜の中でも黒竜は更に強い。黒竜の中でも、あのオヤジは最強だ!」といった感じでひたすら持ち上げられています。
ヴァルハルト(覚醒 / ヴァルム皇帝)も、大陸1つをまるまる統一するという手腕を見せ、「これは凄いな」とプレイヤーに思わせてくれます。
ヴァルハルトのように凄い手腕を持っていると大物に見えるわけですが、逆に仕事っぷりがヘッポコだと小物に見えます。
例えば、ナーシェン(封印 / ベルン王国将軍)が良い例で、西方三島でリキア軍を処分する仕事をしくじり、ミスル半島ではギネヴィアを奪還され、ナバタ攻略の作戦は放置し、といった感じで全く良い所がありません。
このように、手腕や実力の有無で、悪役が大物に見えるか小物に見えるかが変わってくると言えます。
まとめ
以上のような条件を満たしていれば、その悪役は大物っぽく見えるというように思います。
但し、条件を1つだけ満たしている程度ではダメです。
例えば、ガンズは「4:ピンチに動じない」の条件を満たしていますが、まだまだ小悪党の領域です。
まあ条件を3~4個満たしていれば大物と言えるのではないでしょうか。
もし自分で悪役を考え出す必要がある際は、こういった要素を考慮すると良いのかもしれません。