ポケモンの技・特性・道具の英語名を見ていると、日本語の意味をうまく反映できているものとそうでないものがあることが分かります。例えば、Fire Punch(ほのおのパンチ)やSwords Dance(つるぎのまい)などは文句なしに意味の伝わる直訳ですが、U-Turn(とんぼがえり)やTwister(たつまき)などは日本語の意味が完璧に反映されているとは言えません。U-Turnがどうして虫タイプの技で、Twisterがなぜドラゴンタイプの技なのか、名前で説明できていないからです。
この手の技は、日本語特有の表現が入っているので、英訳の際は、どうしても全ての意味は伝えきれません。そこで、訳しづらいポケモン用語を英訳する際、どの意味を残してどの意味を切り捨てているのか、調べてみました。
動物名が入った用語(1)
日本語名 | 英名 |
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ネコにこばん | Pay Day |
ねこのて | Assist |
ねこだまし | Fake Out |
ほたるび | Tail Glow |
オウムがえし | Reflect Move |
ポケモンには動物名を含んだ技名が多くありますが、この手の技は大抵訳しづらいものです。直訳でねこのてをCats's Handなどとしていては意味不明ですので、大半は意訳で何とかしているようですが、結果的に日本語の動物的要素は失われています。どうして猫系のポケモンがAssistを使うのかは、外国人には伝わらないでしょう。
ほたるびは、バルビートが使う分にはTail Glowで良さそうですが、マナフィが使ってもTail Growとなるのは意味不明ですね。マナフィがほたるびを使えるのは、海ホタルのイメージから来ているのでしょうが、日本語以外でその関連性を表現することは難しそうです。
動物名が入った用語(2)
日本語名 | 英名 |
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むしくい | Bug Bite |
つばめがえし | Aerial Ace |
むしのしらせ | Swarm |
こちらは、上と違ってせめてもの抵抗が見受けられるパターンです。Bug Bite(虫刺され)には穴あきという本来の意味が含まれていませんし、Aerial Aceからも剣道の技であるという意味が伝わりませんが、どちらも頭韻を踏んでおり、語呂が良いです。英語では、韻を踏むのが良いネーミングのファクターだそうですね。
また、Swarmには、虫を表す「worm」と似た発音の文字列が含まれており、虫っぽさが出ています。虫の知らせで攻撃力が上がるのは意味不明ですが、Swarm(大群)だと攻撃力が上がりそうなイメージが湧きますので、日本語より優れたネーミングと言えます。
タイプ名が入った用語
日本語名 | 英名 |
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どくづき | Poison Jab |
かげうち | Shadow Snake |
りゅうせいぐん | Draco Meteor |
どくづきは「悪態をつく」と「毒攻撃」のダブルミーニングとなっています。またかげうちは本来「真打より出来栄えの劣る刀」との意味であり、「影」という単語がゴーストタイプを連想させることも含め、2重の意味を持っています。これらに関しては、日本語のイディオムにこだわるより、「どうやって攻撃をしているか」を正確に伝える英訳が成されているようです。
りゅうせいぐんについては、先頭にDracoとの修飾を加えることで、ドラゴンタイプの技であることが説明されています。
格闘技
日本語名 | 英名 |
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やまあらし | Storm Throw |
じごくぐるま | Submission |
きつけ | Smelling Salts |
ちきゅうなげ | Seismic Toss |
格闘タイプの技には日本語的表現が多く、英訳難易度の高そうなものが多めです。正直、英名を見ても、日本語名とどう対応しているのか良く分からない例が多いです。
やまあらしに関しては、あらしの部分だけが英語名に反映されています。そもそも山嵐とは、必殺技と名高い柔道の投げ技のことだそうで、英語圏にはもともと存在しないものですから、英訳は無理ですね。
じごくぐるまも同じく柔道に関連する技です。こちらは、柔道漫画に登場する架空の技だそうですが。英語名はSubmission(服従、降伏)なのですが、何故そういう英名になるのかは良く分かりません。使われたら降伏するしかないほど強力な技だということなのでしょうか…?
きつけの英名はSmelling Saltsだそうですが… 塩の匂いを嗅ぐと、元気になるのでしょうか?
ちきゅうなげはSeismic Toss(地震の投げ技)だそうで、投げ飛ばした相手が地面に当たるときの衝撃が地震級だということを表しているのでしょう。まあ、それってただ投げているだけじゃないのか、とも思いますが…
天気関係
日本語名 | 英名 |
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てんきや | Forecast |
ノーてんき | Cloud Nine |
天気を表す比喩も、英訳を難しくする要因となっています。
「天気屋」は、気分がコロコロ変わる様子を天気に例えて言い表した言葉。英語では、そういう意味を伝えることは諦め、Forecast(天気予報)となっています。天気に合わせてフォルムが変わるのは、果たして天気予報と言えるのでしょうか…?
同じく、「能天気」も心理的な要因と天候の要因を同時に言い表した慣用句です。一方、「be on cloud nine」は「有頂天」との意味を表すイディオムです。「cloud」は天気に関連する単語ですから、頑張って心理と天候を同時に表す言葉を探せていると言えるでしょう。
慣用句・同音異義語
日本語名 | 英名 |
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なしくずし | Chip Away |
さきおくり | Quash |
せんせいのツメ | Quick Claw |
たたりめ | Hex |
この辺りも良く分からない英訳が多いです。
なしくずしの英名はChip Away。大きな木や石を小さな欠片(Chip)に砕いてから取り除く(Away)、というような作業が「なし崩し」だと言っているのでしょう。
Quashは「鎮圧する、鎮める」の意味であり、さきおくりとの関連性は謎です。先送りの説明文には「相手を抑えつけて行動の順番を最後にする」とありますので、この抑えつける動作をQuashと表現しているのかもしれません。
せんせいのツメは先生から貰うことで入手できる例もあることから、「先制」と「先生」を掛けているものと思われます。英語ではQuick Clawと、言葉遊びの余地のない、シンプルで潔い言葉になっています。
たたりめも、まあ日本語の諺を英語にするのは無理だよな、という感じですね。
英語の方が巧く命名できている例
日本語名 | 英名 |
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かわらわり | Brick Break |
あまいかおり | Sweet Scent |
どくのこな | Poison Powder |
しびれごな | Stun Spore |
こだわりハチマキ | Choise Band |
はやおき | Early Bird |
「訳しづらさ」という論点からは少しずれますが、英語の方が日本語よりテクニカルなネーミングができている例もあります。
例えば、かわらわりやあまいかおりの場合、BrickとBreak、SweetとScentで頭韻と脚韻を同時に踏んでいます。どくのこなとしびれごなに関しても、「粉」をPowderまたはSporeと言い換えることで韻を踏み、語呂を良くしています。
こだわりハチマキの英名はChoise Bandですが、Bandには「ハチマキ」との意味の他に「縛る」という意味もあります。つまり、「選択肢を縛る」というダブルミーニングになっているわけです。これは日本語名よりクレバーなネーミングですね。
はやおきに関しては、「早起きは三文の得」と同義の「The early bird catches the worm」との英語の諺があることから、Early Birdが対訳となっています。語中に「鳥」という単語があることから、ドードーやネイティといった飛行ポケモンがこの特性を持つことが連想しやすく、日本語より優れたネーミングであると言えます。
英語の方が格好良く命名できている例
日本語名 | 英名 |
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ドわすれ | Amnesia |
デスウイング | Oblibion Wing |
ぼうふう | Hurricane |
れんごく | Inferno |
技のカッコ良さというのもRPGにおいては重要であり、英語の方がセンスのいい名前を技に付けられている例もあります。
ドわすれの訳はAmnesia(記憶喪失)となっており、やや大袈裟な気もしますが、名前としてはカッコいいと思います。
デスウイングに関しても、「デス」という短絡的なネーミングより、Oblibionのほうがセンスが良いと言わざるを得ません。
ぼうふうに関しても、Hurricaneと言った方が大技っぽい気がしますね。別にハリケーンを起こすわけではありませんが…
まとめ
慣用句や諺をもとにした用語は英訳が難しく、日本語の意味を全て英語に盛り込むことはできません。そのため、英語にする際には言葉遊びの部分を削ぎ落とし、技の攻撃方法や道具の効果を簡潔に伝える訳となることが多いようです。
一方で、英語の方が日本語よりうまくネーミングできている例もあり、ローカライズチームも頑張っているんだなあ、という印象を受けます。